いわゆる「不倫」を題材とした映画。みたいなものがいくつか掲げられていたのだけれど、 そこに、Lust,Caution(色戒)もあげられていたので、いささか腑に落ちないなぁと。
(全く関係ないけれど。アン・リー監督作品では「恋人達の食卓」もオススメな映画。)
これすごい好きな作品なんです。
(以下かなりのネタバレを書いていますので注意)
というのも、確かにこの映画、まあ妻が居る人と関係を持つ話ではあるものの、
そもそもこの話は「不倫がバレたらどうしよう!?」ってところで
進んでいく話では無く、
スパイとして男に接触していく女、
「スパイってことがバレたらどうしよう!?」って方の話なので、
「不倫の映画ですよん」とくくられるのは、かなり違うんじゃないかと思うんですよ。
しかしスパイ映画という感じも無く、
ホントに「ザ・大人の恋愛映画」だと感じるんですよね。
トニー・レオンの真骨頂だと思います。
インファナル・アフェアでも素敵なんですけれど、
トニーレオンの中では一番彼の良さが出てる映画なんじゃないかと・・・
上品な大人の男の色気というか、
自分の仕事の立場に苦悩してる姿のかいま見せ方とか、
ふっと彼女に心を許す瞬間の僅かな笑みとか。
この映画、かなり長く、冒頭はいきなりクライマックスの直前のシーンからはじまって、過去に巻き戻されるので、最初は「?」な感じかもしれない。
そして
「こんな安易に学生がスパイ活動に突入しない。」とか
「(トニーレオンが)こんな立場であるのに、普通はもっと早く彼女の正体に気づくだろうよ?」と言ってしまう人も多いんだろうけれど、
現実でも、大きな事件みたいなものは意外と遊びの延長みたいなものや、
安易に作られることも多いし、
大人の男ほど、恋愛に溺れたら、その溺れ加減が半端ないというのは、
玉○○二氏などを見ていても一目瞭然だと思う。
そう、これは私の私感ではあるけれど、若い時分より、
35歳をすぎたくらいの男性の方が、恋愛において、ある程度の年齢で恋に落ちた場合ののめり込み度もすごいし、それを満喫してしまう気がする。
良い歳してバカップルかよ。という突っ込みなども、
アラフォー以上の男には関係ないのだ。
「うるさいよ、ひよっこが何言ってるんだ。
お前もアラフォーになれば分かるときが来る」くらいに思ってるに違いないと。
この映画は他のアジアでは多くの肉欲シーンがカットされてしまいましたが、
あの半ば暴力的というか、もうそれ○○プレイですよね?って感じに、
トニーレオンと関係が結ばれた後の、やってやってやりまくる度がすごい。
「身体だけが目当てなの?」なんて思わない。やってやってやりまくるほど、お互いに恋に落ちていく感がドンドン増していく。
そしてクライマックスの宝石屋のシーン。
このクライマックスシーンがホントに素敵で、天国に上り詰めたあと一気に地獄に堕ちて行くという展開なのだけれど・・・
最初、この目も眩むような宝石を目の前にして、手に取らない彼女に、
「はめてみて」「君がそれを着けたところを見たいんだ」と言う。
「宝石」が美しいのではなく、それをはめた彼女を「美しい」と愛でたいと。
これって凄い殺し文句だし、男にこんなこと言われた瞬間に「この人は私にぞっこんなんだな」と確信できてしまう。
(ただし値段が高級でセンスが良いもので、女の方も「くれて当たり前」と思わない女であることが条件)
しかもこの映画では、本妻にはこの「鳩の卵」ほどの大きさの宝石は買い与えておらず、自分の方にこちらを買って、指輪に仕立ててくれたことを、
彼女は本妻との会話の中で知っているのだ。
自分の持てる財力を違う形に変え、愛してる女に身につけてもらって、その姿を見たい。
そんなこと言われたら、もう女は「完敗です」よ。完敗。。
映画でもその言葉を聞いた彼女が白旗を上げる訳です。
恋愛に勝ち負けなどは存在しないですが、
このスパイとしての勝負は、完全にハニートラップをしかけた彼女の勝ちだったのです。
けれど、ハニートラップを仕掛けた本人も恋に落ちてしまった。
良くあるパターンの話ですが、その良くあるパターンを、
緊迫感と甘美さをうまくミックスさせて仕上げた素晴らしい作品です。
「恋はするものではなく落ちるものなんだ」ととある小説の中にも出てきましたが。
結局、恋愛なんてものは、落ちてしまったら、甘美で周りが見えなくなる麻薬のようなものなんですよね。
不倫映画。と言われている他の映画も結局根本は男と女の恋愛映画であって、
昨日のロンググッドバイの、「あの」セリフじゃないけれど。
「こんな時代に、恋くらいしていなきゃ、苦しすぎるじゃないか。」
という一言につきる。
今の時代は、恋なんかしなくても苦しくない時代なんだろうか?